アーティストinそんぽの家S王子神谷 ~1年間の活動報告~

アーティストinそんぽの家S王子神谷とは?
SOMPOケアと東京藝術大学との取組みとして、2018年にスタートしました。アーティストがSOMPOケアの運営するサービス付き高齢者向け住宅「そんぽの家S王子神谷」でご入居者さまと共に生活しながらアートを通じて交流し、新しいコミュニティを構築しています。東京藝術大学の履修証明プログラム「Diversity on the Arts Project(通称DOOR)」を履修したアーティストを中心に、これまで延べ17名の方が参加しています。
2024年度は2組のアーティストが、そんぽの家S王子神谷で活動をしました。
2024年度のアーティストをご紹介
1組目:武市 雄介さん/東京藝術大学絵画科日本画専攻卒業
※武市さんは24年度、25年度の2年間にわたっての活動となります。
大学では日本画を専攻し、主に平面絵画を制作していました。学部三年の頃から徐々に映像作品への関心が強くなり、学部四年の頃に講義の中でドキュメンタリー作品を制作しました。今回は映像作品を制作することを前提に参加しています。
2組目:もぢゃもぢゃピンクネスト(もぢゃピン)/DOOR7期生を中心に初のグループで参加
左から、原口高志さん・川嶋由香さん・竹下さま(ご入居者さま)・礒崎葉奈さん・岡本紗弥さん
私たちは東京藝大の履修証明プログラム「DOOR」7期生メンバーを軸に結成しました。グループ名は「もぢゃもぢゃピンクネスト」(略して「もぢゃピン」)といいます。入居者みなさまの「もぢゃもぢゃ」した思いや気持ちを「ピンク」の色感の力を借りて、みんなの住まいに明るさや健康と幸せを呼び込みたいとの願いを名前に込めました。
それぞれ会社員や学生など、年齢や職業も違う4人です。そんな私たちが、「そんぽの家S王子神谷」で「ケア」と「アート」の実践活動を行います。ホームにもご協力いただき、「アート」という手法から、ちょっとした場作りや共同制作などを通じて、人のつながりやぬくもりを共に感じていただけたらいいなと思います。
ホームでの主な活動とご感想をお聞かせください!
武市 雄介さん
まずは映像作品の題材を探すため、普通に生活をしてホームのことを知ろうと考えました。
最初の数ヶ月は、理想と現実を擦り合わせる作業が続きました。まず、私自身が思っているよりも自分は奥手だということがわかりました。それに加え、入居者の方は、イベントや食事のとき以外は出歩かない方が多く、当初の想定よりも人と関わることが難しかったと思います。
そんな中、お一人の入居者さんが企画した映画観賞会があることを知りました。企画者の入居者さんはとても人当たりが良かった為、コミュニケーション面で課題を抱えていた私は、この鑑賞会を通して制作を進めることにしました。鑑賞会は、毎月一回企画者の決めた映画(本人の持っているDVD)を上映し、アーティストがコーヒーとお菓子を提供する「映画鑑賞会×Artist Cafe」の形で定着し、1年間続きました。
映画鑑賞会の様子
cafeでは映画の感想のほか、その日あったことなど、いろいろお話しました。
夏頃には、香港で行われていた「Silver Linings」というプロジェクトを日本でも行いたいと、知り合いから打診をいただきました。
これは、プロのカメラマンに無料でポートレートを撮ってもらう代わりに、被写体となった入居者の方々に人生を教えてもらうという企画です。9月8日に実施し、メイクやカメラマンなどさまざまな人がホームを訪れました。少し異様な雰囲気がありましたが、ほとんど全員にインタビューさせていただきました。このプロジェクトに対する良い意見も沢山いただき、滞りなく開催できたかなと思っています。
いつものホームが撮影スタジオに
いい思い出になりました
最大の目的である「映像作品」の制作は、題材を決められず半年経っても滞っていました。その中で、映画鑑賞会の企画者である入居者さんの手持ちのDVDが残り少なくなり、今まで続けていた「映画観賞会」ができなくなるかもしれないという事態が発生しました。その頃、私は、鑑賞会を手伝いながら、鑑賞会を企画することが、彼のホームでの居場所を作る手段なのではないかと感じ始めていました。
そこで、彼を撮影しながら自分がアーティストとしてホームから居なくなった後も、映画鑑賞会を続けられるように何かできないか考えることにしました。寄付の呼びかけ、図書館へのアプローチ、民間企業との連携などさまざまな案があります。この取組みは25年度に続きますので、引き続き見守っていただければと思います。
私は、ホームでの生活を通して自分たちは部外者であることを痛感しています。私達アーティストは期間の中でさまざまな活動をしますが、この活動が終わっても入居者さんの生活は続きます。私は残りの1年、日常に目を向け、もし毎日あったものが無くなりそうになったとき、そこに手を伸ばして日常を継続させられるような活動をしていきたいと思います。
もぢゃもぢゃピンクネスト(もぢゃピン)
そんぽde文化祭
4月からゆるゆる活動を始めて、夏過ぎに、職員さんから「文化祭をやってみたら」というひと声をきっかけに、そこから火がついて、11月下旬に「文化祭」が実現。施設の入居者さんや職員さんの作品を中心に、私たちが文化祭全体を彩る役割をし、地域を交えての開催となりました。さらにアーティストは一人一制作を期して挑みました。
期間中は「地域座談会」も行いました。入居者さん、職員さん、地域の方、DOORメンバーなどが集い、「施設を開くには?」「住みよいってどういうこと?」みたいなテーマにその場でたどり着き、話に花が咲きました。そしてなによりそこで「子どもたちに出されている学校宿題、書初めに対応するような『書道教室』をやってみよう!」とか、「夜の時間にお酒も少したしなめるような、団らんできる『バー』をやってみたい!」というアイデアが出て、実現できました!
もぢゃピンと武市さんによる合作の文化祭看板
書道教室
かわいい孫か曾孫か。書道が達者のおじいちゃん(御年92歳の羽生さん)先生の「書道教室」が、施設内の多目的食堂で3回実現しました。今日は「七転八起」をお手本に書き始める。最初はこどもたちみんな真剣に、次から次へ半紙を求めて書き続ける。けど、だんだん我流に目覚めて、「へいわなせかい」などが出現し、日記のような長文や絵がでてきて、自由な発想でこどもたちも日頃の思いも表出して、おとうさんおかあさんもびっくり!?家族そろって楽しい時間を過ごせました。
書道教室の様子
羽生さま(ご入居者さま)が先生です!子どもたちの自由な発想にびっくりされています。
代表の原口さんからコメントをいただきました。
当初、「そんぽの家」で活動機会のお話をいただいた際、私自身家族がいるため、ホームに住み込むことができませんでした。ならばチームで活動したいとお願いをさせていただき、実現できました。そこから、もぢゃピンメンバーや素敵な職員さん、そしてあたたかく見守ってくださる入居者のみなさん、さらにイベントに集まってくださった地域の方々に恵まれたおかげで、色々と新たな試みをチャレンジしてこれました。この場をお借りしてありがとうございます!!
ちなみに下のコラージュは、私が常時滞在できないので、入居者のみなさんに思い出していただけるように作りました。(桑田佳祐さんと私、ちょっと似ているといわれます・・・笑)
桑田佳祐さんからイメージを膨らませて作りました。右上が私です。
私は普段銀行員でして、「アート」に関わるのが必ずしも専門ではありません。昨年末に父が危篤となりましたが、運よく今は快方に向かっています。その危篤時のベッドで意識のない父に、好きだった野球の絵を描いて見せたり、意識が戻ってきてからもゆっくりと話しかけたり、「そんぽの家」での体験が生きる経験をしました。なにかアートには人の思いを「表現」「伝達」「受容」する力があるような気がしました。
余談ですが、父の介護で西東京市の実家に帰ったとき、見慣れた「こども食堂」の「のぼり」をたくさん見ました!なんと実家から自転車圏内に8施設もあって。いつかその施設間をエリアでつなげるアート活動なんかができたら良いなと思いました!
ご入居者さまからのお手紙(原文のままご紹介いたします)
Artistとの出会い、そして今…
令和5年7月31日、永年住み馴れた北区の地を離れた。75年の永き住まいであったので、ここを生涯の地と決めていた私にとって、非常に悲しい、決別し難い心境でした。
一人身の私を案じる子供達への最後の子供孝行と考え、熟考の未転居を決めた。一人住いは、最愛の妻を亡くして5年程経験はしているものの、生活環境は一変、 私の心は妻を亡くした5年前に逆流してしまった。 新たな住居、新たな人間関係、1步外に出ても自然の眺め、そして建物と全て眞新らしい1からのスタートでした。これからは時間をかけ、馴れ親んで行くしかないと、少しずつ心に刻み1日1日を過ごして来ました。
昨年夏頃か、当施設に住む芸大出身のArtistの女性が目に止まり、それからの彼女の一挙手一投足が気になり始めました、細かいことは分かりませんでしたが、施設に住む高齢者の方々、一部障害のある方々に、少しでも希望と勇気をと頑張る姿を見るにつけ、私にも出来ることがないかな…と思い始めました。1日を如何に過ごすか、楽しく過ごせるか、悩んで過ごすか。皆さん共通の問題なのでは?そんな心境の中、私にも何かお伝いが出来ないか。彼女とのコンタクトに成功。昨年末当所内で文化祭が開催され、拙い習字を1点揭示されました。この事がきっかけとなり、地域内の子供達と一緒に習字を学ぶことにも連がりました。
当所内の若きArtist達からエネルギーを、子供達から純真な心に触れ、老体の私にも、若々しいエネルギーが注入され、前向きに生きる源泉となっている今日此頃です。ありがとうございます。
飯高ホーム長からの感想
私がそんぽの家S王子神谷に配属されて丸3年が経とうとしております。
アーティストとの関わりも今期で3期目となりますが、メンバーが入れ替わると取組みも異なってきます。
今期の方々について特徴を挙げますと「熱意」の一言に尽きると思います。
「文化祭」「地域座談会」「バー」など、魅力的な企画を立ち上げては、それを実行に移してくれる行動力に常々感服していました。
また打合せ等の席で、こちらが何気なく口にした、やってみたいという思いはあるものの、人手などの問題で手つかずの企画を熱心に聞いてくださり、それを何倍にも膨らませて実施していただいたこともありました。
ご入居者さまにも我々職員にも、より濃密な思い出を残してくださいました。
今後もこの活動を通して、ご入居者さまにドキドキや感動を伝え続けていけたらと思います。
私、ライター篠田も2017年の「DOOR」1期生でした。
そのときのメンバー2名が最初のアーティストとして、王子神谷で活動を行っており、私もワークショップに参加をさせていただきました。
そこから今まで続いている「アーティストinそんぽの家S王子神谷」。作る楽しみや見る喜びを通して、これからもご入居者さまや地域の皆さまに、笑顔を届けてくださることを願います。

